なぜ日本の学校・役所・病院はFAXを使い続けるのか

日本のオフィスからFAXが「消える」と、この20〜30年、何度も繰り返し言われてきました。ビジネス誌の「FAX不要論」、2010年代のクラウド化の波、2020年のコロナ禍で在宅勤務用にFAX機を自宅へ持ち帰る話題まで、退場のニュースは折々に流れ続けています。それでも、いまFAXがいちばん現役として残っているのは、意外にも民間企業ではなく、学校・役所・病院という「公共の顔をした組織」の中です。

「なぜ日本はいまだにFAXなのか」への答えは、1つではありません。理由を大きく4つに整理すると、輪郭が見えてきます。

  • 書面文化と押印・手書き署名:契約書や届出書の証拠力を、電子ではなく紙で残してきた歴史
  • 法令・所管官庁ガイドに残る「FAX可」:税務・登記・年金・医療の書式や手続きに、FAXの受付ルートが今も明記されている
  • 調達・情報漏えい対策の「見なし安全」:メール添付を禁じる組織で、FAXが「安全な代替」として運用されている
  • 現場と本庁のIT格差:現場(教員・窓口担当者・看護師・地域包括支援センター職員など)に届いていない端末や回線環境

これらは互いに絡み合っていて、どれか1つが解けてもすぐには消えません。順番に見ていきます。

学校:文部科学省の廃止方針と現場の温度差

学校がいまもFAXを求める背景は、家庭の側から見るとわかりにくいものです。「欠席届はFAXで」「学校感染症の治癒証明はFAXで」といった依頼を受けて戸惑う保護者は少なくありません。

文部科学省は2023年12月のデジタル行財政改革会議で、令和7年度(2025年度)を目標に、学校のFAX業務と押印を「原則」廃止する方針を打ち出しました。しかし文科省の同時期の調査では、教育現場の95.9%がまだFAXを使っている状況が確認されています(出典:文部科学省「学校事務のデジタル化に関する調査」)。

原則廃止と現場運用のあいだには、目に見えないタイムラグがあります。全教員に端末が行き渡っていない自治体、連絡帳アプリを導入していない小学校、緊急連絡は紙で残す運用を続けてきた学校は、実際には移行の途中にあります。この移行期に「今日の朝、欠席届をどう届けるか」を考えなければならないのは、保護者の側です。

学校からFAXを求められた場合の具体的な送り方は、学校の欠席連絡をFAXで送る方法 に例文つきでまとめています。

役所:紙受付ルートが「消せない」理由

市役所・区役所・町村役場の窓口には、今も紙とFAXで受け付ける書類が残っています。罹災証明の申請、児童手当の関連書類、住民票の写しの請求など、オンライン申請と並行して紙・FAX・郵送の3ルートを維持している自治体は珍しくありません。

理由の1つは、取り残される人を出さないためです。オンライン申請に慣れていない住民(高齢の方、災害の被災者、DV避難中の方など)を制度から排除しないよう、紙とFAXのルートは意図的に残されています。もう1つは、多くの申請書式が、条例や施行規則で「所定の様式に記入し、所管窓口に提出する」と定められていることです。書式の改正には議会や規則改正の手続きが必要で、単純に「オンラインに一本化」とはいきません。

税務署・法務局・年金機構・ハローワークなど、市町村より上のレイヤーの官公庁でも、FAX窓口は場面を限って残っています。窓口ごとの受付範囲は、次のガイドで細かく整理しています。

各機関の窓口が「何を受け付け、何を受け付けないか」を1枚1枚拾っていくと、廃止の方針とは別に、実務としてはFAXルートが必要な場面が残っていることが分かります。

医療:個人情報と現場スピードのはざま

病院・診療所・保健所のFAXは、コロナ禍で一度大きく話題になりました。保健所からの発生届がFAXで自治体に送られ、集計に時間がかかっている、という報道です。以降、電子的な発生届管理システム(HER-SYS)への移行が進みましたが、医療現場のFAXは完全には減っていません。

医療機関でFAXが残る理由は、他の分野と少し違います。

  • 緊急性:救急搬送前の情報共有、紹介状の先出しなど、電話に添えて紙で送る運用が根付いている
  • 個人情報の取扱ポリシー:メール添付を禁じる院内規定が多く、FAXが「対面渡し」の次に安全な選択肢とみなされている
  • 電子カルテがつながっていない:クリニックと基幹病院、地域包括支援センターと在宅チームなど、システム同士がつながっていない相手とのやり取りで、共通言語としてFAXが残っている

かかりつけのクリニックから「紹介先の病院にこの紹介状をFAXで送っておいてください」と頼まれる、会社の総務から「診断書はFAXで先に送ってください」と言われる、といった実際の場面での送り方は、保健所・医療機関へのFAX送信ガイド にまとめています。

契約書・銀行:印鑑と手書き署名が残るところ

民間の中でも、印鑑や手書き署名を伴う書面のやり取りは、まだFAXに依存する場面があります。取引先から「契約書は原本を郵送しますが、まずはFAXで送ってください」と頼まれる、銀行の海外送金訂正依頼や相続関連の届出、保険会社の請求書類などは、電子化が進みつつも書面提出が残っています。

背景には、電子契約の普及率と、既存の商慣習の温度差があります。「電子契約に切り替えたい」と発信するのは大企業側であることが多く、取引先の中小企業や個人事業主から見ると、まだ紙・FAX・押印の運用のほうが現実的で速い、という場面が続きます。相手先が電子契約サービスに未登録の場合、アカウント作成と本人確認の案内から始めるより、いま手元にある印鑑と用紙を1枚FAXで送るほうが、その日のうちに話が進むというのが実感に近いところです。

「PPAP」が象徴する見なし安全のカルチャー

日本のオフィスFAXを語るとき、忘れてはいけないのがメール添付ファイルの取り扱いです。パスワード付きZIPを添付し、パスワードを別メールで送る、いわゆる「PPAP」の運用が長年続いてきました。2020年11月に当時の平井デジタル改革担当大臣が内閣府でのPPAP廃止方針を打ち出し、以降、大企業を中心に見直しは進みましたが、多くの現場に染み込んだ「メール添付=リスク」という感覚は、そう簡単には消えません。

この感覚がある組織では、「メールで添付するくらいなら、FAXで送ってもらったほうが安全」という判断が、逆説的に成立します。FAXは物理的な回線を1対1で使う仕組みなので、番号を間違えさえしなければ、原則、意図した宛先にだけ届く。この単純さが、「見なし安全」の根拠になっています。

FAXは万能ではありません(番号の1桁違いはすぐに起きます)が、少なくとも「大量の宛先に同時にばら撒く事故」が起きにくい、という点で、いま情シスや総務がリスクを説明しやすいツールとして残っている、というのが実態に近い評価です。

「令和7年度FAX廃止」の掛け声のあとに残るもの

文科省の令和7年度FAX原則廃止、押印廃止、行政手続きのオンライン化。デジタル庁を中心に「脱FAX」の動きは、少なくとも方針のレベルでは加速しています。しかし、原則廃止の裏には「例外」があり、廃止された窓口の隣にはまだ紙で運用されている窓口が残ります。

海外から見ると「日本だけがFAX大国」と言われがちですが、実際にはドイツでも公的機関のFAX残存が繰り返し報じられています。たとえばバーデン=ヴュルテンベルク州では、州政府の12の省庁が合計で1,400台以上のFAX機を稼働させていると、2025年10月にドイツの地元メディア The Munich Eye が報じました(内訳は内務省568台、法務省585台、財務省164台、教育省53台、農業省41台ほか)。日本の特殊さは、書面文化・押印・手書き署名・所管官庁ごとの受付ルールが分厚く重なり合っているところにあります。1枚のシートを剥がせば済む話ではありません。

現場の廃止が進むのを待つあいだ、いま学校・役所・病院からFAXを求められている人は、「今日の1枚をどう届けるか」を考えなければなりません。

FAX機がない状況で送るには

FAX機を持たない家庭にとって、選択肢は主に3つです。

  1. コンビニのマルチコピー機で送信:セブン-イレブン・ローソン・ファミリーマート等で送信できます(1枚あたり50円前後)。ただし店舗まで出向く必要があります。詳しくは コンビニでFAXを送る方法 を参照
  2. 職場・知人のFAX機を借りる:出社後や勤務時間中の対応に限られます
  3. オンラインFAXサービスで自宅から送信:PCまたはスマートフォンから、FAX機もコンビニ移動も不要で送信できます

海外の相手先にFAXを送る場合は、010プレフィックス+国番号+相手先番号の順で発信します。詳しくは 海外FAXの送り方 をご覧ください。

PayPerFaxで今すぐ送る

PayPerFax は、登録不要・月額契約不要のオンラインFAXサービスです。学校の欠席届、役所への申請書、病院への紹介状など、「今日この1枚をFAXで送らなければいけない」という状況で、そのままPDFをアップロードして送信できます。

  • 登録不要:メールアドレスと支払い方法だけで送信可能
  • 月額料金なし:必要なときだけ使う運用に向いています
  • 料金:最初の3ページは$2、追加ページは1ページあたり$0.75
  • 送信確認:送信結果はメールで届きます
  • どこからでも送信:PCとスマートフォンの両方に対応(パソコンからのFAX送信

日本のFAX文化がいつまで続くのかは、政策の方針だけではなく、現場の一つ一つの窓口が更新されるスピード次第です。その日が来るまでのあいだ、「今日のFAXを届ける手段」を1つ用意しておくと、掛け声の余波を受けずに済みます。

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